横浜地方裁判所 平成2年(ワ)515号 判決 1992年10月14日
反訴原告
石原晃三
ほか一名
反訴被告
田浦忠彦
ほか一名
主文
一 反訴被告らは、反訴原告石原晃三に対し、連帯して五三一万三七一五円及びこれに対する昭和六一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告らは、反訴原告石原玲子に対し、連帯して九四万三八九四円及びこれに対する昭和六一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、七分し、その六を反訴原告らの、その余を反訴被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 反訴被告らは、反訴原告石原晃三に対し、各自三一八八万〇四〇〇円及びこれに対する昭和六一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告らは、反訴原告石原玲子に対し、各自九八五万四四〇〇円及びこれに対する昭和六一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、普通乗用自動車対普通乗用自動車の衝突事故で負傷した反訴原告らが、加害車両の運転者及び保有者に対し、それぞれ民法七〇九条と自賠法三条に基づき損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 事故の発生
日時 昭和六一年八月三〇日午後二時ころ
場所 東京都八王子市堀ノ内二〇八三番地先
野猿街道堀ノ内交差点内
加害車両 普通乗用自動車(多摩五二ね七三六三)
所有者 反訴被告田浦忠彦
運転者 同小森賢司
被害車両 普通乗用自動車(相模五九ひ八三七四)
運転者 反訴原告石原晃三
同乗者 同石原玲子
態様 加害車両が、赤信号を無視して前記場所の交差点内に進入し、交差道路を青信号に従つて左から右に向かつて進行中の被害車両右後部に衝突した。
2 反訴原告らは、本件交通事故により負傷し、事故当日府中恵仁会病院にて診察を受け、その後相模原伊藤病院で治療を受けた。
反訴原告石原晃三は、初診の昭和六一年九月一日から症状固定の診断がなされた昭和六三年一〇月二四日までの間二二二日間同病院に通院し、昭和六一年九月一二日から昭和六二年二月一四日まで一五六日間同病院に入院した。
反訴原告石原玲子は、初診の昭和六一年九月三日から症状固定の診断を受けた平成元年三月一日まで二一八日同病院に通院した。
3 反訴被告田浦忠彦は、加害車両の保有者であり、運行供用者としての責任を負う。
4 反訴被告小森賢司は、前記場所の交差点に差し掛かつた際、進行方向の信号機が赤色を表示したのであるから、この表示に従い一時停止すべきであるのにこれを怠り交差点内に進入した過失があり、不法行為責任を負う。
5 既払額
反訴原告石原晃三に対し二七七万四〇〇〇円
反訴原告石原玲子に対し一二九万四〇〇〇円
第二争点
一 損害項目全体に関して、反訴原告らの相模原伊藤病院での治療の内容及び期間の相当性の有無
二 その他各損害額
第三争点に対する判断
一 反訴原告らの相模原伊藤病院での治療の内容及び期間の相当性について
証拠(甲三の11、12、七の1~4、八、一二、二〇、乙三~六、二〇、二四の1~199、二五の1~185、証人乾道夫、同伊藤茂、反訴原告ら)によれば次の事実が認められる。
1 事故直後に反訴原告らが診察を受けた府中恵仁会病院において、反訴原告石原晃三は頸椎捻挫、右膝打撲により、同石原玲子は右肩打撲、頸椎捻挫により、それぞれ昭和六一年八月三〇日から全治約五日の加療を要する旨の診断を受けた。
2 反訴原告石原晃三は、その後頸部圧痛、頸部運動制限、右握力の低下、右手中指の疼痛等、頸髄不全麻痺による両側上肢のしびれ感等諸症状を訴えるようになり、同年九月一日、相模原伊藤病院での診察を受けて、頭部外傷、脳震盪症、頸椎捻挫、頸髄不全麻痺、右手挫傷との診断により頭部、頸部及び右手のレントゲン検査、頭部の超音波、脳波検査、握力検査等の諸検査を受け、神経消炎賦活剤等の投与や頸部のラクール・テクター固定等の治療を受けていたが、さらに頭痛、頭重、右上肢及び右手のしびれ感、右手握力の低下など症状悪化を訴えたため、医師の指示により同病院に入院した。
入院後の諸検査の結果は、肝機能の検査に異常所見が認められたものの、その他のレントゲン、超音波、脳波検査、CTスキヤン等の結果はいずれも異常所見が認められなかつた。入院中の治療は、肝機能障害に関して薬剤の投与が行なわれた他、頭痛、めまい、両側上肢及び右中指のしびれ感などの訴えに対処するため、薬剤の投与(入院の全期間を通してほぼ同一薬剤の投与)、高圧酸素治療(六〇回)等が行われたが、反訴原告石原晃三の訴える症状は殆ど改善のあとがなく一進一退のまま退院に至り、その後の通院治療の経過にも顕著な症状の改善は認められなかつた。反訴原告石原晃三は、絶対安静の指示があつた入院直後から頻繁に外出、外泊を繰り返し、看護記録上明らかなだけでも合計二三日に及ぶ外泊があり、さらに飲酒の事実も認められたうえ、昭和六二年一月七日には、本件事故の賠償問題に関して、訴外オールステート自動車・火災保険株式会社本社に赴き、同社より損害賠償金の一部として送られてきた金員を返還しようとした際、札束に火をつけるなどの行為に及んだこともあつた。また、退院後の治療においても、定期的に医師の診察を受けずに、牽引、マツサージ、遠赤外線治療等の物理療法を受けるだけで帰宅していた形跡が認められた。
3 反訴原告石原玲子は、府中恵仁会病院での診断の後、頸部痛、右手指及び右腕等のしびれ感を訴えるようになり、相模原伊藤病院において診察のうえ、頸椎捻挫の診断を受けた。その後通院して牽引、薬剤の投与等の治療を受けたが、諸症状の顕著な改善は認められないまま約三年六か月の後に症状固定の診断がなされた。
また、同反訴原告においても、通院中医師の定期的診察を怠つていた形跡が認められる。
以上認定の事実によれば、相模原伊藤病院の治療について、同一薬剤を長期にわたつて投与している点及び高圧酸素治療法の選択等について治療行為としての妥当性を問題にする余地があり、また、症状固定の時期についても疑問があるものの、右病院において、医師の治療行為における裁量の範囲を越えて不適当なに治療が行われていたことまでを断定することはできない。
しかし、反訴原告らの症状はいずれも自覚症状のみであり、長期にわたる治療にもかかわらずほとんど改善されていないことなどを総合考慮すると、反訴原告らの諸症状はいずれも心因的要因が影響する性質のものであると認められること、また、反訴原告石原晃三の入院中及び通院中の治療態度、反訴原告石原玲子の通院中の治療態度にはいずれも問題があり、これが損害の増大の一因になつているものと認められることなどの事情は、後記のとおり被告らが賠償すべき損害額の確定にあたつて考慮されるべきである。
二 損害額
(反訴原告石原晃三関係)
1 治療費(請求額五一三万二二〇〇円) 五一三万二二〇〇円
証拠(乙一七~一九)により認める。
2 入院雑費(請求額一八万七二〇〇円) 一八万七二〇〇円
一日あたり一二〇〇円が相当であるから入院日数一五六日間で一八万七二〇〇円となる。
3 通院交通費等(請求額一一万一〇〇〇円) 一一万一〇〇〇円
一回の通院にあたり必要とされた交通費等雑費が五〇〇円であることは当事者間で争いがないので実通院日数二二二日分の合計は一一万一〇〇〇円となる。
4 休業損害(請求額二〇〇〇万円) 五二四万九一二五円
証拠(反訴原告石原晃三)によれば、反訴原告石原晃三は、事故当時不動産業、ビル解体業、建築機材のリース仲介等を仕事としていたことが認められるが、その収入について同反訴原告の主張にそう乙二は、客観的裏付けを欠くうえ、乙一の1及び2の内容に照らしてにわかに措信できず、他にその主張にかかるの年収を認めるべき証拠はない。
従つて、反訴原告石原晃三の休業損害は、平成二年度賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者全年齢平均の年収額五〇六万八六〇〇円を基礎として算定するのが相当であるところ、反訴原告石原晃三の症状固定日までの治療期間のうち、一五六日間の入院期間及び実通院日数二二二日について一〇〇パーセントの休業損害を認めるべきであり、その総額は五二四万九一二五円となる。
5 慰謝料(請求額五六二万円) 二〇〇万円
本件に現れる諸般の事情を総合考慮すると、本件事故の慰謝料として二〇〇万円が相当である。
なお、反訴原告石原晃三について、後遺障害が残存したことを認めるに足りる証拠はなく、従つて、後遺症慰謝料は認めることができない。
6 以上の損害合計額は一二六七万九五二五円であるが、前記一のとおり、同反訴原告の諸症状が心因的影響に左右されやすい性質のものと認めれること及び同反訴原告の治療を受ける態度に問題があつたことなどの事情を考慮すると、右損害額のうち四〇パーセントは反訴原告石原晃三の帰責事由に基づくものとし、六〇パーセントにあたる七六〇万七七一五円を反訴被告らの賠償すべき損害額と認めるのが相当である。
右金額から反訴原告石原晃三に対する既払額二七七万四〇〇〇円を除くと四八三万三七一五円となる。
7 弁護士費用(請求額三〇〇万円) 四八万円
本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、四八万円が相当と認める。
(反訴原告石原玲子関係)
1 治療費(請求額七八万一六五〇円) 七八万一六五〇円
証拠(乙二一~二三)により認める。
2 通院交通費等雑費(請求額一〇万九〇〇〇円) 一〇万九〇〇〇円
一回の通院につき五〇〇円であることは当事者間に争いがなく、実通院日数二一八日分は一〇万九〇〇〇円である。
3 休業損害(請求額五九六万三七五〇円) 一六七万二五〇七円
証拠(反訴原告石原玲子)によれば、反訴原告石原玲子は、本件事故当時主婦として家事に従事していたものであることが認められ、同反訴原告の休業損害算定の基礎となる収入は、平成二年度賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者全年齢平均の年収額二八〇万〇三〇〇円とするのが相当であるところ、症状固定日までの通院期間のうち実通院日数二一八日につき一〇〇パーセントの休業損害を認めるのが相当である。
4 慰謝料(請求額二〇〇万円) 一〇〇万円
本件に現れる諸事情を総合考慮すると、反訴原告石原玲子の本件事故による慰謝料は一〇〇万円が相当である。
5 反訴原告石原晃三と同様に前記一記載の事情を考慮すると、以上の損害合計額三五六万三一五七円のうち四〇パーセントについては反訴原告石原玲子の帰責事由に基づくものとし、六〇パーセントにあたる二一三万七八九四円を被告らの賠償すべき損害額とするのが相当である。
右金額から既払額一二九万四〇〇〇円を除いた八四万三八九四円となる。
6 弁護士費用(請求額一〇〇万円) 一〇万円
本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は一〇万円が相当と認める。
(裁判官 近藤ルミ子)